★ 福島天文同好会の50cm反射赤道儀製作記 ★


  「星の手帖」VOL.26(1984年秋号)
            特集−ドブソニアン  より、再録

               
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            50cm反射赤道儀製作記

     手軽なドブソニアンのつもりが、いつの間にか赤道儀に変身。3人
     集まれば・・・とかのたとえのとおり、りっぱに星もみえました。

                  福島天文同好会


               

■はじめに

 チロ望遠鏡製作を開始した頃、藤井旭さんより「そろそろ福島天文同好会でも大きいものを作ら
んかね」とお声がかかりました。どちらにしても天体観測所も大口径望遠鏡もない当会では、かね
てよりまとまりのあるものを作れば、会員の気運もあがるので、何かないかと思案していたさ中で
あったので、飛びつくようにこの提案に乗ったのでした。
 口径50cmという話を聞いたときには、とてつもなく大きなものであるように感じたものですが、
チロ望遠鏡の製作を手伝った会員もいたせいか意外と勢いがついてしまって、初期の計画では見る
だけのドブソニアンタイプにすることになっていたものが、会員の意見調整をしているうちに赤道
儀だったらとか、写真も撮ってみたいなど、だんだん欲が出てきて、ついにはごらんのとおりのフ
ォーク式赤道儀となってしまった次第です。
 そんなわけでひとつも天文台のない福島市で、この50cmを移動し観望会を開き、天文楽普及の一
役も演ずるようなものにしたり、良い星見の場の多い福島県内を会員と共に走りまわり、光公害の
ない所でゆっくりと望遠鏡での鑑賞をしたいものと思っています。
 ところで当会には特にその筋の職人はいませんが、要するに「玄人はだし」の人が各部分を製作
担当してくれましたので、要所を書いてもらうことにしました。また、良いことはすぐまねをする
同好会なものですから、読者の皆さんが苦心なさってきたアイデアも、50cmに生かされている部
分がたぶんあるかと思います。また、これから製作なさる方は、私たちの良い部分を取り入れてよ
り良いものを作っていただく参考になればと思っています。


               

■鏡筒部

 同好会員の注目を集めたこの部分は、はじめドブソニアン方式のオーソドックスなタイプの紙でで
きた円筒形を考えたのですが、一応、どこか特徴のあるものを、ということで、大天文台にあるよ
うな方式が頭に浮かび上がりました。要するに斜鏡筒が8角形でトラス構造、まあ結果的には、チ
ロ望遠鏡のミニチュア版といったような仕上がりになってしまいましたが、やはり工程上、丈夫さ
を考慮に入れると、こんな形になるのではないでしょうか。
 まず鏡筒の製作にあたり、地方にいても材料が容易に入手でき、加工が簡単で、しかも会員から
のカンパ資金を有効につかうべく、できるだけ安価に仕上げることを前提に木製ということを決めま
した。
 木製にしてけっして問題点がないわけではなく、それは夜になると水分を吸収して多少ではあ
るが筒が歪んでしまうということや、金属製に比べ強度が足りないことでした。
 しかし、実用上それらの心配はないことが完成後わかりました。

■斜鏡筒

 8角形の部分は、耐水ベニヤ20mm厚を組み合わせたもので、一見製作がむずかしそうですが、角
度さえ正確に切り出せば意外にも、きれいに出来上がります。


               

■斜鏡部

 塩ビパイプで斜鏡を取り付けようとしたのですが、斜鏡の重量もけっこうあり、おそらくもたな
いと思い、鉄パイプを切り出し、組み込み、アームについては鉄板を幅広く使い、横から見るとち
ょうど飛行機の翼に似たような形になりました。しかしそれが少々裏目に出てしまい、重量オーバ
ーとなり、セル側にその分バランスウエイトを置くはめになってしまいました。今後、この点をア
ルミ合金の鋳物に取り換える手はずになっています。


               

■主鏡室

 次に主鏡室は、やはり20mmの耐水ベニヤを60cm角の箱型とし、いっしょに作り、後で切り離した
鏡室を大型のパッチン錠8個でワンタッチで簡単に取りはずせる構造となってます。


               

■パッチン錠

 1個の対荷重量が20kg、8個で160kgまで耐えられるので、鏡室30kgは充分持ちこたえられま
す。このパッチン錠の発想は意外にうまくいき、鏡の保管が容易となり大成功でした。

■トラス構造部

 斜鏡筒と主鏡筒の接続もいろいろ意見の出たところで、結局は横・縦からの荷重に対しても耐え
られる構造ということでトラス構造を取り入れました。このパイプは、商品名をイレクターとい
い、棚などを作る材料として、日曜大工用品屋で長さもいろいろあるし、各形式のジョイントごと
に売っているものをボルトで取り付けてあります。


               

■主鏡と斜鏡

 当会では、今から8年ほど前に口径10cmの反射鏡研磨講習会を開き、2か月間で約15名の会員が
自作の鏡面を手にしたことがあるのみで、大口径を自作した経験がある人はいなかったし、30cmは
おろか50cmなどまったく見たことがありませんでした。輸入は、すべて藤井旭さんにお願いし、約半年
ほどで鏡が到着、なんともその大きさには驚かされたものでした。
 また、斜鏡はアメリカCOULTER社製で短径が110mm、長径160mm。


               

■接眼部

 おそらく赤道儀を製作なさる方は、誰もが悩むところでしょうが、フォーク式の場合はまた余計
に、バランスのことも考えに入れなくてはならず、苦労しました。また8角形状態なので筒など
を回転する装置も付けられず、考え出したのは、3か所に接眼部をスライドさせて取り付けられる
ように、台座を一体化した構造としてあります。
 ネックとなる光軸の狂いをそのつど修正しなくてもすむように、斜鏡をクリックストップ方式に
するとか、斜鏡筒そのものをなんとかして回転できるようにするなど、まだまだ頭の痛い部分です。


               

■主鏡セル

 主鏡の厚みは45mmと薄く、ゆがみの発生が考えられるため、気をつかって製作しなければならな
いところです。
 その解決方法は、鏡面圧迫を防ぐため鏡の周りをシリコン系充填剤で固め、局部的に鏡が圧迫さ
れないような方法をとり、水平方向にしたとき、鏡がはずれるのを防ぐために鏡おさえを4か所に
設けてあります。鏡おさえは通常は、鏡には接していません。
 次に光軸修正の方法は、セルおよび鏡室が木製のため押しネジ引きネジでは木自体のゆがみが鏡
面に影響を及ぼすだろうと考え、押しネジだけの構造とし、光軸修正後、セルを鏡室に横からボル
トで固定するという方法をとりました。
 なお、実用上は約40°ほど傾くと像のゆがみが生じ、今年の木星ぐらいの位置では20p反射のほ
うが詳細が判別できるほどで、いずれ9点か18点支持法に改良しなくてはいけないと思います。
 極論かもしれませんが、頭上天体を集中的に見ているというのが現状です。


                    

■架台部

 望遠鏡を移動するには、会員の車3台に分乗させるか、できればワゴン車1台で移動したい気持
ちがあったので、おそらく総重量の約7割がこの架台の部分で占めると思われ、できるだけコンパ
クトにと軽量化を図るのに苦心したところです。
結果的には、ワゴン車に組み立てたままの鏡筒とすべての機材を入れて移動ができる大きさとなり
ました。


               

■極軸部

 極軸部は、鉄アングルで骨組を作り、そのまわりを耐水ベニヤで囲む構造にしました。実は逆に
木製の枠ができてからアングルをその中に入れたため、ひと苦労したのですが、このアングルだけ
でも相当強度はあり、それに厚さ30mmのベニヤ板の強度と相まって、特に強度的には問題はないよ
うです。
 極軸は、φ50mmのシャフトにフォーク取り付け板を溶接し、軸受けはピローブロックベアリングを
使用しました。本来ならピローブロックは、精度の問題からあまり使いたくなかったのですが、赤
緯部のベアリングのハウジングを外注したところ、けっこう高くついてしまい、今回は既製の物
を使いました。
 ウォームホイルは、φ310、モジュール1、歯数310の物を群馬県の方々のご好意により作って
いただき、ウォーム軸はコの字形をしたアングルにピローブロックベアリングで固定し、その軸上
にパルスモーターを直結させ、そのアングルごとを上下左右に押し・引きネジで位置の微調整がで
きるようにしてあります。
 次にクランプですが、図に示した構造で、横からモーターで押す方法です。この部分も赤緯部の
クランプよりは、まだ締め付けがきいているのですが、それでも完全にはクランプがききませんの
で、今後、赤緯クランプと同様に作り変える予定です。


               

■フォーク部

 フォーク本体は、150×100の角パイプを溶接し、極軸とφ16mmのボルト4本で結合してありま
す。赤緯方向の回転部はフォークの両端にスラストベアリング付ニードルベアリング(スラストと
ラジアルベアリングが一体となったもの)を使い、ハウジングは鉄工所で、肉厚の鉄板から切り
出して作ってもらいました。このベアリングは片側1個ずつで軸が充分固定され、鏡筒のガタもな
く強度的にも充分です。赤緯微動はタンジェントスクリューとし、ここで役立ったのが古物屋で見
つけてきた何に使う物か不明なのですが、マイクロメーターがモーターで左右に動く部品があった
のです。この部分はアマチュアが作るボルトとナットのタンジェントスクリューでガタを除くのに
苦労する部分ですが、マイクロメータが付いているぐらいですから、ガタがあるはずがありませ
ん。次にクランプですが、当初は電動クランプの予定で作成したのですが、赤緯軸を横からボルト
で締め付ける方式ではモーターのトルクが不足して完全にクランプできない状態で、その点、人の
力は相当なものであり、とりあえずボルトを6角レンチで締め付けるようにしました。
 今後は、赤経、赤緯クランプ共に、車のドラムブレーキのようにして電動にする予定です。

■脚部

 発想としては、プラモデル作りをしていた時のキャノン砲の広がった脚部にありまして、フォー
ク部と同様の150×100の角パイプを切断し、V字形に並べ、極軸部をボルトで取り付けます。ま
た、高度修正のため脚の先端に、ボルトを取り付けてあります。架台部は脚部2本、極軸部および
フォーク部の4個に分解できますが、さすがに極軸部は3人がかりでやっと運べる重さです。移動
に際しては、鏡筒部を含めてワゴン車1台に入ってしまう大きさです。
 鏡筒部および極軸部の一部に一見弱そうなベニヤ板を使った望遠鏡が完成したのですが、厚い板
を使い、鉄骨等と組み合わせ完全に接着すれば、重量軽減のために、薄い鉄やアルミ材を使うより
もはるかに軽量で頑丈な物を作ることができます。


               



■駆動(電気回路)部

 大型望遠鏡の駆動装置は、一昨年から昨年にかけて作った「チロ望遠鏡」が初めてで、たいへん
よい経験となりました。出来上がってみると不満なことばかりで、もう一度全部作り直したい思い
でいっぱいですが、とりあえず、今回の50cmの場合は、写真撮影もできることをねらうことになり
ましたし、作り直しをしなくとも済むようにと考えました。


               

★全体の計画
 赤経、赤緯とも、クランプ式を採用したので、導入のための高速回転は必要ありません。
 赤経は、パルスモーターを使用し、ガイド補正は恒星時に対し±20%、粗動時は3倍速くらいと
しました。赤緯は直流モーターを減速ギアを介して接続し、微動は電圧を下げて使う予定で計画し
ました。
 クランプ系もDCモーターとスクリューネジの組み合わせで考えることにして、機械班と打ち合
わせを行いました。
 図1が全体の回路図です。


               

★赤経駆動部
 出来上がってきたウォームホイルは、直径310mm、モジュールが1、したがって歯数は310歯で
した。またパルスモーターは、すでに購入してあった日本サーボのKP6M2-002、1/225減速ギア
付きを使用することにし、これをもとに、クリスタルの周波数(F)を決定しました。

        

 クリスタル注文の際は、5.3052MHzを指定して、完成後測定しながら正確に合わせます。
 分周後の周波数は、161.9Hzとなります。これなら3倍増速しても500Hz以下で応答周波数以下
で心配なく、50pの分解能0.23″にたいして、ワンステップ角0.093″で1/25と、まずまず問題はなさそ
うです。
 ガイド補正の増減(+、−)の周波数は、161.9±30Hzとして、それぞれ192Hz、132Hzとしま
す。粗動(+)の周波数は161.9×3≒486Hz、(−)用は161.9Hzで逆転させます。
 パルスモーターの駆動回路としては、種々考えられますが、図2のようなもので作りました。出
力に使ったTD62064はダーリントン接続の回路が4個入り、DC電流増加率800で、50V0.7Aの出
力がとれる便利なものです。


               

★赤緯駆動部
 赤緯駆動は、速さは特に問題にならないと考え、直流モーターDME32BHGに1/60の減速ギアを
付けて使用しました。タンジェントスクリューの部分微動のため、リミットスイッチ(S10,S
11)を付け、機械的に無理のかかるのを防ぎます。マイクロスイッチ(S10,S11)の接点間に
入っているダイオード(D5,D6)は、リミットスイッチが働いて停止した後、反転時の電流の
通り道となります。さらに微動するためには、供給電圧をVR1で下げて行います。しかし、こ
の方法は使ってみると負荷の状態によって速さが変わってしまう欠点があります。将来は赤経側と
同じようにパルスモーター駆動に改良すべきだと思っています。


               

★クランプ回路
 普通のリレー(オムロンMH2ZP)2個とキープリレー(オムロンMY-2K)1個を使って回路を
作っています。原理は、DCモーターは負荷が重くなるのに従って電流が増加する特性を利用し
て、クランプ完了を検出します。S1をロック側に倒すとモーターM1が回りだし、ロックが進ん
で回転が重くなるに従ってVR2の電圧ドロップが大きくなり、ついにRL3が働き、C1のチャー
ジがキープリレー(RL2のSコイルを糖して放電し接点に切り替わりM1は停止します。S1を解
除側にしますと、RL1が働きM1にかかる+−が逆になると同時にキープリレー(RL2)のRコ
イルに電流が流れて黒接に戻り、M1は逆回転しロックが解除され、リミットスイッチS8を押す
と停止します。
 M1をDME32RGに1/20ギア付きを使用しましたが、トルク不足でロックガ不十分でした。DME3
2HGに1/60ギア付きで実用になりましたが、”星空への招待”の時は調整が間に合わず、跳ね返り
スイッチを使って急場を凌ぎました。


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   以上が、記事の全文です。
   写真・図については、記事からのコピーです。
   尚、この記事が掲載された「星の手帖」VOL.26には、
   第10回「星空への招待」のカラーグラビアなども載っており、
   なつかしくなりました。